Lesson3-2 行政主導から自主的な防災へ②

日本の防災の課題とは

私たちは国の法律に基づいた防災の仕組みに守られています。

しかし、そこには今の防災の課題が潜んでいます。

行政主導の防災の限界

あなたは

「災害が起きたら避難所に行けば何とかなるだろう」
「政府や自治体が支援してくれるはず」

そんな風に考えてはいませんか?

確かに政府も自治体もこれまでに様々な対策を講じてきました。
避難所へ行けば物資は手に入るかもしれません。

しかし、それには限度があります。

行政が防災に取り組めば取り組むほど、人々は安心感を得て、
逆に防災意識の低下を引き起こしてしまうのです

行政に任せっぱなしになり、自主的に防災に取り組めなくなっていることが、
今の日本の防災の課題だと言えます。

災害が発生すれば、会議で今後に向けての課題と対策が話し合われます。
その都度、行政では改善を行ってきました。

それでも自然災害によって犠牲者が出なかった年はありません。
それでも避難しない、避難できなかった人がいるのです。

その理由は、実際に被災した地域の人の動きに目を向けると明らかです。

想定を過信してはいけない

東日本大震災での津波を例に挙げます。

堤防が高く修繕されたから大丈夫だと思った」
「ハザードマップでは自宅は浸水しないエリアだった

そのような声が多く聞かれたそうです。

堤防を越える津波は絶対に来ないと言い切れますか?
ハザードマップはどのような根拠で危険なエリアを示しているか理解できていますか?

堤防もハザードマップも、過去のデータに基づいた想定を元に作成されていますが、
その想定内の規模の災害も、想定以上の規模の災害も、発生する可能性があります。

行政主導の防災では、国民が提供された想定を意識しすぎるあまり、
自ら判断を下せなくなってしまうところに問題があるのです。

残念ながら、国も自治体も一人ひとりに手を差し伸べて安全な場所へ連れて行ってくれるわけではありません
だからこそ、自分で判断して行動する力がなければならないのです。

いざという時、生死を分けるその瞬間に、行政の手は届きません。
自分のことを自分で守るための準備が何よりも必要です。

誰が主体的に防災を行うのか。
それはまさしく自分自身が行わなければ、意味がありません。

法律だけでは命は守れない

行政は災害対策基本法を筆頭に、様々な法律を制定して国家の防災に取り組んできました。
災害救助法もなくてはならない法律です。

しかし、それらはすべて災害が「起きた後」に「次の災害が起きた時のため」に作られてきました。
行政の対応はその性質上、後手になりがちなのです。

被災した人のその後の経済的支援を行うこととする、被災者生活再建支援法も
災害で助かった人だけが恩恵を受けることができるものです。

行政の力は無くてはならないものであることは間違いありません。
しかし、第一に国民一人ひとりが命を守る行動を取らなければ
災害で命を落とす人が減ることはないでしょう。

法律だけでは命を救うことはできません
ここでも行政主導の限界があると言えます。

釜石の奇跡

東日本大震災で大津波の被害にあった東北地方で、生存率99.8%だった小中学校が、岩手県釜石市にあります。

子どもたちが日頃の防災教育で学んだことを活かし、避難したことで、多くの人の命が無事であったことから、
釜石の奇跡」と呼ばれています。


あの日、釜石東中学校で真っ先に避難行動をとったのは、校庭の地割れを見たサッカー部員でした。

「津波が来る」と大声で叫びながら走る姿を見て、他の生徒たちも後に続きました。
それを見た近くの小学校の生徒や先生方も、一緒に第一避難所を目指して走り出しました。

この小学校と中学校は、普段から共同で避難訓練を実施していたのだそうです。

子どもたちが全力で逃げるのを見て、地域の人たちも避難を始めます。

第一避難所に到着すると、建物の裏にある崖が崩れ始めていることに中学生が気づき、
さらに高台にある別の避難場所を目指そうと提案します。

子どもたちは、津波が町を飲み込んでいく光景を目にしながら、必死で避難しました。
自分の家が流され涙しながらも、途中で合流した保育園の子どもたちの避難を助けながら。

第二避難場所に到着しましたが、そこから見えるはずのない海がすぐ近くにあったそうです。
ここも危ないと判断し、さらに高台へ逃げました。

こうしてなんとか命を守ることができたのです。


実はこの二つの小中学校は、ハザードマップの浸水区域の外側にありました
マップの想定を信じて安心していては助からなかったでしょう。

もう一つ想定に捉われなかったことがあります。

それは、子どもたちの避難力です。

第一避難所に指定されていた場所は、学校から離れてはいてもあまり高台ではありませんでした。
しかし子どもの移動を考えるとその場所が妥当だという判断でした。

その想定を軽く超え、子どもたちは自らの意思でさらに高台へと避難したのです。
それは子どもたちの、まさに想定に捉われない、主体的な行動によるものでした。

これを「奇跡」のままにするのではなく、
「当たり前」にすることがわが国の防災には必要であると言えます。


いかがでしたか。
今の日本の防災で大切なことが理解できたでしょうか。

行政ができる防災には限界があり、
個人や地域の主体性がなければ人命は守れないということです。

次のページでは、
住民と地域と行政が協力して防災力を高める、これからの防災について考えていきましょう。